柳宗理デザインの「バタフライスツール」は、2016年に60周年を迎えました。世界の家具史においてもアイコン的存在であり、世界中の人々を魅了し続けているバタフライスツールは、柳宗理/柳工業デザイン研究会の監修のもと、天童木工(日本)とヴィトラ(本社拠点:スイス)の2社のみが製造・販売を許され、世界で流通しています。1956年の発表時から天童木工によって製造・販売され、欧米圏では2002年からヴィトラが製造・販売を行なっています。
天童木工は成形合板による家具作りを得意とする家具メーカーです。創業から7年後、終戦直後の1947年にこの技術を取り入れ、日本でいち早く実用化させました。この成形合板の技術が、無垢材では表現できない美しく柔らかな曲線のデザインを可能にしています。強く、軽く、そして美しい、家具として理想の形に木を導く。成形合板の技術を錬磨し続けてきた、天童木工のこだわりです。
1950年創業のスイスの家具メーカー。世界的なデザイナーの創造性と自社の開発力によって製品とコンセプトを生み出し、そのデザインの力を通してホーム、オフィス、公共スペースの空間の質の向上に貢献。美意識あるタイムレスなデザインと機能的な製品の創造を追及しています。またヴィトラキャンパスにおける建築やヴィトラデザインミュージアムでの展示、ワークショップ、出版物でも知られ、多様な側面を有しています。
天童木工とヴィトラのそれぞれのバタフライスツールは、同じく柳工業デザイン研究会と柳宗理本人の監修のもと、製造されていますが現物をじっくりと、細かく比較していくとディテールにその違いが見られます。
どちらのバタフライスツールが真実なのか?答えは、どちらも紛れもなく真実、です。柳工業デザイン研究会と柳宗理本人が監修しているのだから。微妙なカーブの曲面形状であったり、曲面の角アールのエッジ処理や表面の突き板の表情であったり。おそらくこれらは、職人それぞれの感性によるアウトプットの差から生まれる違いであり、職人が自分の感性を以って仕上げた製品に対し、その都度、柳宗理本人が監修/指示を出していることから、これらのバタフライスツールの製品の違いは、「職人の感性と相まって生まれた製品の個性(特徴?)を受け入れ、バタフライスツールをより良いものにしていきたい」という柳宗理本人の思いの表れなのかもしれません。また、柳宗理本人の感性の変遷である、とも言えるかもしれません。
天童木工製の座面はヴィトラ製に対し、座面部分の立ち上がりが緩やか。
座る部分をやや平坦に仕上げているのが特徴の天童木工製と、座面の立ち上がりが少しダイナミックにも見えるヴィトラ製。
天童木工製の座面部分の曲面形状は断面に注目すると、フラットに近い形状であるのに対し、ヴィトラ製の座面はなだらかな凹みを感じさせるカーブが特徴的。
天童木工製の座面側面が緩やかにラウンドしているのに対し、ヴィトラ製は中間部に膨らみを感じさせるようなフラットな部分を設け、地面に近づくにつれ急激にすぼまるような立面形状をしている。
天童木工製は側面からみて、脚部のフォルムがすっきりとした美しい曲線を意識した佇まいに対し、ヴィトラ製は全体的に立体感を強調したイメージを受ける。ただ、見た目の印象の違いとは裏腹に、中央のカーブ自体にはそれほど違いはなく、特徴的に違うのは地面に近い部分(SECTION-A/A’)ほどヴィトラ製は若干すぼまっている。SECTION-B/B’では、POINT3で示した通り少しだけ板幅が長い。それほどの微妙な差異が、全体的な印象の違いに発展している。
このように、言葉にして説明しづらいニュアンスをデジタルデータ上可視化し、比較検証をすることで、バタフライスツールを深く理解することができます。家具史上、重要な価値を有するマスターピースのデザインをしっかりと細かく理解し、その時代でどのような形状であり仕立てだったのか?デジタルで正確にその機微を保存することで、貴重な歴史をアーカイブしていくことにつながります。
ヴィトラ製のバタフライスツールは欧米圏向けの製造・販売となり、日本国内では購入できません。日本国内でのバタフライスツールの詳しい情報およびご購入はこちらからどうぞ。
デジタルテクノロジーが発展し、以前は難しかった、オブジェクトの複雑な形状やテクスチャー、その他細かな情報の取得が可能になってきました。
柳工業デザイン研究会と株式会社ケイズデザインラボは、プロダクトデザインのマスターピースそのものの持つ情報を正しく取得・保存し、価値のあるオフィシャルデータを貴重な資産(アセット)として管理し、資産とその権利を保有・発信をしていく仕組みや環境を考察し、未来のあり方を検証していくため、DIGITAL ARCHIVES RESEARCH(デジタルアーカイブズリサーチ) というプロジェクトを発足いたします。